先を見据えた入れ歯治療
第1章で、入れ歯を入れる際に噛み合わせが重要であることを書きましたが、「試せる入れ歯」であっても、これは同じく重要なことです。ただ、「試せる入れ歯」ではこの時に、同時に過酷な条件下、はっきり言えば、患者さんにとって悪条件の下で入れ歯が入れられるかどうかも確認しなければなりません。
例えばよくあるケースとして、上あごに歯が2、3本しか残ってなくて、その歯もすでに決して大丈夫とはいえない状態、しかし今使っている入れ歯は、残っている歯にバネ(クラスプ)で固定して、かろうじて使えている…。
そのような患者さんで、新しい入れ歯を作りたいと来られた時、「さあどうするか?」です。
バネをかける歯は、負担がかかってぐらぐらしたり、食べカスが溜まって虫歯になりやすいマイナス面があります。このような状態では、最高級の入れ歯を作っても、間もなく残っている歯に固定することが難しくなり、やがて使えなくなることは目に見えています。
もちろんそれでもその入れ歯を作り、セットした時だけ「良かった良かった」と満足するので構わなければ、そういう選択もあるとは思いますが、決してお勧めはできない方法です。
こうした場合、早ければ1年以内に残っている歯も抜けてしまい総入れ歯になる可能性があります。もちろん、こういった状況でも、数年、あるいはもっとそれ以上現状維持されている人もいないわけではありません。
ですから、望みは捨てるべきではありませんが、うまくいく場合のことばかりを考えて治療し、結果的にそうならなかった時にはどうするのかを考えておかなければ、今だけ満足する、単なる問題先送りの治療で、根本的には何も解決していないかもしれません。
危なっかしい歯でも残す価値はありますが、抜けてしまう場合も考えておかなければ、決して安心、万全な治療とは言えないでしょう。言いにくいこともありますが、私は現実をきちんと話しておくことも大切な治療の一部だと思っています。現実逃避の治療を行って行き着くところまで行き着いた時に、最後に困るのは患者さん自身ですから。
ちょっと話がそれてしまいましたが、「上あごに歯が2、3本しか残ってなくて、その歯もすでに決して大丈夫とはいえない状態」の患者さんは、まず、上あごをしっかりプラスチック(床)でおおう、総入れ歯タイプの入れ歯を試してみることをお勧めします。
「私はオエッとえずくので上あごをおおう入れ歯は無理です」と言われても、ここはなんとかがんばって乗り越えていただきたいところです。患者さんにとっては悪条件な入れ歯とわかってはいますが、まずはこの入れ歯から試してみてください。
ひとまず挑戦してみることが大切です。私も今後の治療に責任を持つ以上、患者さんも、初めからあきらめることはしないで、乗り越えるという方法も会得していただきたいと思います。
このような、将来総入れ歯になる可能性が高い患者さんには、最初に総入れ歯のような上あごをしっかりおおうような入れ歯を試してみます。試す入れ歯だからといって、製作には手を抜きません。当然快適性も考えてきちんとしたものを作ります。
「入れ歯治療の新発想」
第1章 「逆転の発想」から考える入れ歯治療
第2章 新発想の「試せる入れ歯」
第3章 日本人に合った理想の入れ歯とは
噛みやすく、薄く、軽い 新開発の金属製入れ歯「ディアレスト」
第4章 入れ歯作りの真髄 私の入れ歯作りに対する取り組み
第5章 患者さんの本音に答えます
Q.自由診療は、保険診療と違って、なぜこんなに費用が高いの?