入れ歯の寿命
よく患者さんから「入れ歯はどのくらいもちますか(何年くらい使えますか)?」という質問を受けます。自由診療で作ったから一生涯もち、保険診療で作ったから半年しかもたない。などという簡単なものではありません。現実には逆のようなこともあると思います。
入れ歯は体に装着し、消耗するものとして、よく靴に例えられます。皆さんが履く靴を例にわかりやすく考えてみましょう。
毎日実用的に使う靴は、多目的に使用されるため、材料の耐久性が良いこと。作りが丁寧であること。これによって一般的には寿命が決まると言えます。さらに使い手の取り扱い、手入れ、歩き方、行動範囲の地面の状態によってもちに差がでるでしょう。
また毎日使う靴を、楽な運動靴にしたい人もいれば、おしゃれなヒールの高い靴をはきたい人もいるでしょうし、仕事のため仕方なく皮靴をはいている人もいるでしょうから、靴のもちを横並びで比較することは難しいと理解していただけるでしょう。
そのため、使う用途により一概にどのくらいもつとは言えませんが、あえて一般的に言うならば、靴は3年くらいもてばいいというところでしょうか(私の感覚かもしれませんが)。
しかし、安い運動靴を3年も5年も履いている人もいるかと思えば、値段は高いのに使い方によって痛みがひどかったり、いつまでもはき慣れなかったりして1年くらいではかなくなってしまうこともあるでしょう。
これらのことを入れ歯に置き換えると、材料と作りが丁寧であれば長持ちするのはもちろんのですが、それを使う人の取り扱いや、食生活をはじめとする、生活環境によって差が出ると思います。
私の考えでは、自由診療で製作する入れ歯であれば、いわゆる完全オーダーメイドの靴に相当するものだと思っています。もちに関しては手入れ次第では一生涯使い続けられるように製作し、なおかつ愛着をもって使っていただけるような使い心地のよさを織り込むものであることが理想です。それには使い手(患者さん)がどのような状態で使うのか予測し、歯医者さんがしっかりそれを見極めることによって限りなくそれに近づくでしょう。
当医院では見た目だけに特化したおしゃれ入れ歯や、家だけで使うリラックスタイプの入れ歯を作ることもあります。さながらカジュアルな運動靴やおしゃれなハイヒール靴に当たるものでしょうか。そうすれば入れ歯は一つではなく2つになり、靴と同じでより長持ちします。入れ歯も靴と同じで一概に寿命を論じることはできませんが、5年くらいをめどに修理や修正は必要ではないかと思います。
保険の入れ歯でも患者さんをしっかり診て、患者さんもそれに愛着を持って使って行けるなら、20年、30年と使い続けることができるかもしれません。
本当は私たち歯科医師が、一生涯大切に使おうという気にさせる入れ歯を提供することが長持ちさせる秘訣です。
知って得する!入れ歯の話