ためしてガッテン!
先日2月11日にNHKのためしてガッテンという番組で、「歯が抜ける!30代からの悪性虫歯&入れ歯の新常識」と題して、虫歯や入れ歯のくわしい説明が放送されてました。
最新の情報や一般の方の知らない歯科のお話をテレビで紹介していただけるのは、非常にいいことで、どちらかというとあまり注目されていない歯科治療を取り上げていただいてよかったと思っております。
歯科の専門家としては特に新しい内容ではなさそうなのですが、一般の方々にとってはあまり知らないお話ではありましたので、私はこれはこれで虫歯についても、入れ歯についても、今後意識して考えていただける非常に良い機会だったと思っています。
さて、私は入れ歯専門の歯科医師ですので、どうしても入れ歯のことが気になります。この放送では、下の入れ歯のサンプルがスタジオに2つ出されていました。1つは小さめの入れ歯で、もう一つは大きめの入れ歯です。あきらかに大きさのボリュームが違うのですが、歯並びは同じというものでした。
あごの骨が極端に少ない人の場合には、あそこまで大きな入れ歯になってしまうのかもしれないのですが、大きすぎる入れ歯というのも、慣れるまでにかなりの時間を必要とするでしょうし、第一に異物感が強すぎて、口の中に入れていること自体が不快で仕方がないのではないかと、思います。またあそこまで内側も厚みがあるとしたら、舌(ベロ)が身動きとれないので、しゃべりづらいでしょうし、舌(ベロ)をたびたびかんでしまうのではないかとも想像します。
しっかりと食べ物がかめるように、入れ歯を安定させるという目的であそこまで分厚くしっかりした作りになっているのだろうと思いますが、患者さんが慣れるには、相当な努力が必要だと予想します。
入れ歯は、「食べ物をかむ」ということも当然大切ですが、それ以外にも、つけていて楽であることや、しゃべりやすいこと、見た目の良さなど、他にもいろいろ問題があります。1日中、牛のようにもぐもぐと食べ物をかんでいる人というのはほとんどいないでしょうし、食事の時間を計算しても、1日3回食べて合計で1時間~2時間くらいじゃないでしょうか。それ以外の22時間は、かむこと以外の機能が必要になります。
もちろんしっかり食べることは生きていくうえで最重要課題ですから、一番大切だと思います。でもお話しやすいということや、人から見て見た目がいいという要素も、社会的な意味として、かなり重要ではあります。
そこで考えますのは、理想的な入れ歯というのは、食べること1つだけではなく、お話もしやすく、つけていて苦痛でなく、見た目もいい入れ歯ということになります。それらをバランス良く兼ね備えた入れ歯を作ることが、患者さんにとって最も大切であり、少し時間をかけて患者さんに寄り添って、丁寧に作り上げていくことが必要だと思います。
あるいは、こんな方法もあります。食べるために特化した入れ歯を1つ作り、外に出て人に会って話したり笑ったりすることに特化した入れ歯を、もう1つ作るという方法です。
過去には、とにかく異物感が嫌なので、極端にシンプルにした入れ歯を作って、家で使うリラックス用にしたいという患者さんもいました。
やはり、1人の患者さんの要望に合わせて、いろいろ試してみながら、最終的にバランスの良い入れ歯に仕上げていくこと、この方法がこれまでやってきた中で一番最適な方法だと実感しています。
入れ歯を使う患者さんの心や気持ちに合わせて、それに合った入れ歯を提供できれば、作り手としまして本当にありがたいことだと思っています。
知って得する!入れ歯の話