入れ歯と認知症
よく患者さんから「良い入れ歯を入れたらぼけ予防、痴ほう改善になると聞きますが本当ですか?」という質問を受けます。
これは非常に難しい質問です。
結論を出す前に似たような研究がありますので、まずこちらの方を紹介させてください。「朝ごはんを食べてくる生徒は食べない生徒に比べて成績が良い」というものです。某国立大学で実際に行われた研究です。
これを聞いて、朝食を取れば成績がよくなるんだと考えた人は、もしかしたらおっちょこちょいな人かもしれません。朝食を食べるくらいで成績の良さを維持できるなら、だれも苦労しないよと思うのが普通でしょう。
成績の良し悪しを言うのであれば、朝食を取らせる親の姿勢、ひいては教育姿勢、教育環境などの背景の方が成績にはよほど密接に関係していると言えます。
入れ歯と認知症の関係も同じで「入れ歯を入れると認知症が予防・改善できる」という単純なことは言えないということなのです。 私はむしろ、良い入れ歯を入れられる経済的環境、健康管理を含む、口腔への関心度による知的好奇心などの背景の方が、認知症には大きく影響しているのではないかと思います。
研究データと言うものは口コミやマスコミを介して広がっていくとき、どうしてもその人の都合のいいように理解されがちです。嘘ではないにしても、ある部分が省かれたり、拡大解釈されたりします。
結論としては、入れ歯だけで認知症の予防や改善を語るのは無理があると思います。
もし入れ歯を入れた瞬間から、寝たきりの人が起き上がって歩いたなら、自己暗示効果つまり精神的なことに問題があったかもしれないと疑ってみることも十分可能です。それを、入れ歯のおかげですべてが改善したというふうに考えることはあまりに乱暴な考え方だと思います。
しかし良い入れ歯を入れて、食べ物が美味しく食べられ、見た目も改善され、精神的にゆとりが出てくることが、認知症予防だけでなく、体にとって良い影響を及ぼすことは調べるまでもないことです。
知って得する!入れ歯の話